コラム
新人・若手社員の告白シリーズ⑧世帯年収と性別で大きな差が!!昇進拒否のリアル

国民的なご長寿アニメとして知られる『サザエさん』が今でも人気がある理由は、「“昔ながらの日本の風景”を見ると落ち着く」というファンの声によく表れています。サザエさんに描かれる“昔ながらの日本”のイメージの一つとして、会社員の波平さんとマスオさんが二人ともそこそこ給料の高い管理職(課長、係長)である点を挙げる方がいます。そして、「(今と違って)昔は昇進しやすい環境だった」と羨ましがる意見がセットで語られる光景が、かつてのインターネット上ではしばしば見られました。
しかし今、昇進が羨ましいどころか、「昇進したくない」という声が若い世代を中心に聞かれるようになりました。もしかしたら、皆さんの中には「若手社員が管理職に就きたがらず、後任が決まらない…」とお困りの方がいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、企業で働く20~40代の社会人を対象に『管理職になりたいか/なりたくないか』について調査し、その結果をご紹介いたします。
※本記事の編集にあたり、1000名を対象にアンケートを実施しました。今回は「あなたは管理職になりたいですか?」「なりたい(なりたくない)理由は何ですか?」のほか、管理職や昇進に対する価値観に関していくつかの質問をいたしました。記事内では有効回答として得られた589名の回答の集計結果を公開させていただきます。
はじめに、「あなたは管理職になりたいと思いますか?」に対する回答の比率を見てみましょう。
回答者全体の6割以上の方が「管理職になりたくない」と考えていることが分かりました。
パーソルやマンパワーグループなど、他の機関による同様の調査でも、『なりたい』よりも『なりたくない』のほうが上回る結果になっていることが多いようです。
高度経済成長期~バブル期に社会人になった方々が出世して、そこそこ豊かに暮らしている様子を肌で感じたことのある世代の方には、このような考え方は信じがたいかもしれません。「やっぱり最近の若者は消極的だから…」という声が聞こえてきそうですが、本当に若手社員の性格が原因なのでしょうか?
次に、管理職に「なりたい理由」または「なりたくない理由」について、複数の選択肢の中から最も当てはまるものを1つ選んでいただきました。その結果は以下の通りです。
管理職になりたい人もなりたくない人も、『給与』を意識している人が最も多いことが分かりました。
一般的に企業の給与制度は、管理職に昇進することで昇給したり、役職手当が付与されたりするように設計されています。一部の企業において、昇給額が一般職と大差なかったり、残業手当が付かないために手取りが減ったりなど、制度自体に不備がある例もあります。しかし多くの場合、「仕事量や責任の負担がかかりすぎる」ために現制度の収入増では見合わなくなっている実情があるのだと思われます。給与はさほど上がらないにも関わらず、IT技術にともなう業務やビジネスモデルの変化、やる気スイッチのわかりにくい若手世代のマネジメント、コンプライアンス意識の変化に振り回され、“普通に”働くことさえ、年を追うごとに複雑になっていく現代では、管理職が「無理ゲー」と表現され、「割に合わない」と感じてしまうのも無理はありません。
若手社員が「管理職になりたくない」と考えるのは、彼らの性格が原因であるとは断言できないのです。
管理職になりたがらない若手社員が多いことが分かりましたが、管理職に配置できる人材がいなければ会社としては困るでしょう。ここで、管理職に『なりたくない』と回答した方に「もし管理職への昇進を打診されたら、どうしますか?」と質問した結果を見てみましょう。
115(31.3%) 条件次第で引き受ける
171(46.6%) 会社の決定に従う
79(21.5%) その他
2(0.5%)
最も多かった回答は『条件次第で引き受ける』でした。ここで言う“条件”が指すものは、給与額や勤務時間など多岐にわたると思われますが、②の「管理職になりたくない理由」の結果を考えると、「仕事量・責任に見合った給与額」を求める人が大勢を占めていることは容易に想像できます。
また、『会社の決定に従う』よりも『絶対に断る』が多い点も特徴的です。人材不足によって雇用者と労働者の間のパワーバランスが変化してきた結果、「会社の決定に従わなくても、リスクは低い」という認識が徐々に広まりつつあるのかもしれません。ただし、『会社の決定ならば仕方がない』という回答の割合が40代以降に多いことから、こうした価値観が浸透してきたのは比較的近年である可能性も考えられます。
管理職になりたい理由・なりたくない理由の回答結果について解説しました。理由の傾向は、回答者の年代や性別、企業規模などによる傾向の違いはとくに見られず、「理由は人それぞれだが、『給与』を意識する人が多い」と言える結果でした。
ここで改めて、管理職になりたい人・なりたくない人の比率について、いくつかのカテゴリーに分けて詳しく掘り下げてみましょう。
はじめに、年代や男女によって比率はどのように変化するでしょうか?
年代別に比較すると、どの年代もおよそ6~7割の人が『なりたくない』と考えているようです。この比率は、回答者全体の比率と大きな違いがありません。
男女別の比較では回答者全体の比率よりも偏っており、とくに女性の7割以上が『なりたくない』と回答しました。なお、男性はどの年代でもとくに比率は変わりませんが、女性は年代が上がるにつれて『なりたくない』の割合が少しずつ多くなる傾向が見受けられました。
女性管理職の比率が企業自体への評価に大きく影響する昨今、「女性の管理職を増やそう!」と人事評価の見直しに取り組む企業が増えていますが、肝心の女性社員が「昇進したくない」と思っていては、どう対処しても良い結果は生まれません。本来ならば、「働きやすいフォロー体制」「業務に見合った待遇」「魅力的なキャリアパス」など、管理職として安心して働ける環境が揃っているからこそ『優良企業』と評価されるべきなのです。
次に、世帯年収による比率の違いを見てみましょう。
世帯年収別に比較してみると、年収帯が上がるほど徐々に『なりたい』の比率が多くなっていき、900~1000万円を境に『なりたくない』の比率を上回る結果になりました(あくまで世帯収入なので、回答者本人の年収とは限りません)。他の属性で比較しても『なりたくない』のほうが多い中で、きわめて特徴的な傾向が表れています。
回答者の中にはすでに管理職に就いている方も含まれていると思われ、該当する方には管理職に就任する前の心境について回答いただいています。現在管理職に就いている人はもちろん、一般職や専門職でも「なりたい・達成したい」といった目標や向上心がある人は、若手ながらも高い年収に到達する可能性が高いのかもしれません。
最後に、未婚者と既婚者の比率を比較してみましょう。
未婚者の回答は全体の比率ととくに違いがない一方、既婚者の回答はおよそ半数に分かれました。結婚というライフステージの変化によって「収入を上げなければいけない」「立場を安定させなければいけない」という意識が強くなり、管理職を目指す人が増えるのかもしれません。
若手世代の管理職昇進への意欲について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
「出世=年収アップ」への期待は、令和の若手世代も、昭和~平成初期に若手だった世代と同様に抱いていることが分かりました。しかし時代が進むにつれて、「高度な状況判断力」や「厳格で繊細なコンプライアンス」が求められるようになり、いわば『高収入の代償』が重くのしかかるのが、現代の管理職に対する若手世代のイメージでしょう。
社員の働く動機について考えるとき、給与や環境は外発的動機、やりがいや興味は内発的動機に分類されます。どのような状況でも意欲を保つには、内発的動機がどれほど強いかが重要です。外発的動機が充足しすぎると内発的動機を見失いやすくなる一方、外発的動機がほぼ満たされない環境は社員を疲弊させ、貴重な内発的動機が潰えてしまう恐れがあります。そのため、社員の内発的動機と外発的動機を満たす施策をバランスよく講じることが必要です。「給与体系を含む人事評価制度の適正化」はもちろん、例えば「全社員に向けたキャリア開発面談」「役職者によるキャリアセミナー」など、『管理職のやりがい』を社員にイメージさせる方法があります。そしてキャリアアップを目指す社員が積極的に成果を上げ、企業の収益が多くなれば、社員の活躍に見合った給与を提供できるようになり、好循環が生まれます。
もし皆さんの職場が『若手社員が管理職になりたがらない』という問題に直面しているならば、「管理職に対する社員のイメージ」を変えることに取り組んでみましょう。
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